猫がコードやビニール袋を噛んで困る。歯みがきは嫌がってできない。それなら噛んでいいおもちゃを与えれば、歯のケアも一緒にできるのではないか。デンタルと書かれた商品を前に、そう考えたことがある方は多いと思います。
先に結論を書きます。噛むおもちゃで期待できるのは「歯垢が付きにくくなること」までで、歯みがきの代わりにはなりません。そのうえで、効果が見込めるタイプと、噛む欲求を満たすだけのタイプははっきり分かれます。ここでは仕組みから両者を切り分けます。
猫が噛むのは、歯のためではありません
猫が物を噛む理由は、退屈、狩りの延長、歯の生え変わり、ストレスなどさまざまです。「歯を磨きたいから噛む」わけではありません。ここを取り違えると、デンタル用品を与えても噛む対象が変わらないことになります。
コードやビニールなど危険なものを噛む場合は、噛んでいい物を用意するだけでなく、噛みたくなる状況そのものを減らす必要があります。原因の切り分けは猫がコードを噛むときの対策にまとめています。
デンタル効果があるのは、どういう仕組みのものか
噛むおもちゃで歯に働くのは、次の2つの仕組みだけです。
- 物理的にこすれること。繊維や凹凸が歯の表面をこすり、付いたばかりのやわらかい歯垢を落とします。
- 噛む時間が長くなること。唾液が出て口の中が流れ、汚れが留まりにくくなります。
逆に言えば、すぐ飽きて数秒でやめてしまう物は、素材が何であれ歯には届きません。「デンタル」と書かれているかどうかより、その猫が実際に何分噛むかのほうが結果を左右します。
もうひとつ押さえておきたいのが、歯垢と歯石の違いです。歯垢は細菌のかたまりで、付いてから2〜3日はやわらかく、こすれば落ちます。それが唾液の成分と結びついて硬くなったものが歯石です。噛むおもちゃが働くのは、この「やわらかいうち」の段階だけだと考えてください。
効果が期待できるタイプ・できないタイプ
| タイプ | 歯への働き | 主な役割 |
|---|---|---|
| 繊維が束になったロープ状 | こすれる面が多く、期待できる | 歯垢の付着を遅らせる |
| またたび・キャットニップ入りの噛み木 | 噛む時間が伸びるぶん期待できる | 噛む対象の誘導 |
| やわらかい布・綿のぬいぐるみ | ほぼ期待できない | けり・抱え込みの欲求 |
| 硬いプラスチック・ゴム | こすれない。歯を痛める場合も | — |
硬すぎる素材は避けてください。人の爪で軽くへこむ程度がひとつの目安です。まったくへこまない硬さのものは、猫の歯が欠ける原因になります。
またたび・キャットニップ入りは何が違うか
またたびやキャットニップそのものに歯を掃除する働きはありません。効いているのは「噛む時間を伸ばす」という一点です。興味を示さない素材をいくら与えても口に入らないため、この誘導は現実的な意味があります。
ただしマタタビには約3割の猫が反応しません。反応しない猫にはキャットニップ、それも駄目ならシルバーバインと、素材を変えて試してみてください。PurrBite(パーバイト)のように複数の素材を組み合わせたタイプなら、どれに反応するかを一度で確かめられます。
ロープトイとけりぐるみ、歯に効くのはどちらか
歯に働くのはロープトイのほうです。撚った繊維が歯の面をこするため、噛み続けると歯垢が落ちます。またたび入り噛みつきロープトイはこのタイプにあたります。
けりぐるみは後ろ足で蹴る遊びが中心で、噛むのは押さえるためです。歯のケアとしては期待できませんが、噛む欲求そのものを外に逃がす役割があります。バイト&バフ キャットピローのようにサイザル面を持つタイプなら、噛む面とける面を一つで兼ねられます。
与え方と、交換するタイミング
- 1回5〜10分、遊びの流れの最後に置くと噛みやすくなります。
- 置きっぱなしにせず、使う時間を決めるほうが飽きません。
- 繊維がほつれてきたら交換します。長い糸が出た状態は危険です。
- 噛みちぎれる大きさになったら、すぐ処分してください。
複数の猫がいる場合は、頭数分用意してください。取り合いになると、噛む時間より奪い合いのほうが長くなります。
置き場所も結果を変えます。猫が普段くつろぐ場所の近くに置くと、思い出したときに噛みに行けます。逆におもちゃ箱にまとめて片づけてしまうと、存在ごと忘れられます。数を増やすより、1つを目につく場所に置くほうが噛む時間は伸びます。
子猫とシニアで選び方は変わるか
変わります。子猫は歯の生え変わり期(生後3〜7か月ごろ)に噛みたがりが強くなります。この時期はやわらかめの素材を選び、硬い物は避けてください。乳歯が抜けても飲み込んでしまうことがありますが、多くは自然に排出されます。
シニア猫は歯周病や歯の欠けを抱えていることが多く、硬い物で痛みが出る場合があります。噛まなくなった、片側だけで噛むといった変化があれば、おもちゃを変える前に口の中を確認してください。
危険なのは「硬さ」より「ほつれた糸」
噛むおもちゃで最も注意すべきなのは、素材の硬さより紐状のものを飲み込むことです。糸や紐は腸の中でまっすぐ伸びず、腸を手繰り寄せるように動いて重い状態を招きます。これは線状異物といい、緊急の処置が必要になります。
口や肛門から糸が出ているのを見つけても、絶対に引っ張らないでください。そのまま動物病院に連絡してください。
飲み込んだ瞬間を見ていなくても気づける変化があります。繰り返し吐く、食欲が落ちる、うずくまって動かない、便が出ない。噛むおもちゃを与えている家庭では、これらが出たときに真っ先に疑ってほしい原因です。使ったあとにおもちゃの形が変わっていないか、遊び終わりに一度確認する習慣をつけてください。
よくある失敗
- デンタルと書かれた物を置くだけで終える。噛まなければ何も起きません。まず反応する素材を探してください。
- 硬いほど効くと考える。歯が欠ける原因になります。
- ほつれても使い続ける。いちばん多い誤飲の入り口です。
- 歯みがきをやめてしまう。噛むおもちゃは歯みがきの代わりにはなりません。すでに付いた歯石は、どのおもちゃでも取れません。
歯みがきを含めたケア全体の組み立ては猫のデンタルグッズの選び方を、商品の一覧は噛む・デンタルケア用品をご覧ください。
こういうときは獣医師へ
- 口や肛門から糸・紐が出ているとき(緊急)。引っ張らず、すぐに連絡してください。
- おもちゃの破片を飲み込んだ、繰り返し吐く、ぐったりしているとき(緊急)。
- 急によだれが増えた、口を気にして前足でこするとき。
- 歯ぐきから出血する、口臭が急に強くなったとき。
- 片側だけで噛む、食べる速さが落ちたとき。
- 乳歯が抜けずに永久歯と二重に生えているとき。
歯石が付いてしまった場合、除去できるのは動物病院だけです。年に一度は口の中を診てもらってください。
よくあるご質問
噛むおもちゃだけで歯みがきの代わりになりますか?
なりません。期待できるのは、付いたばかりのやわらかい歯垢を落とすことと、歯垢が固まるまでの時間を延ばすことです。すでに歯石になった汚れは、どのおもちゃでも取れません。歯石の除去は動物病院での処置が必要です。
どのくらいの時間噛めば意味がありますか?
目安は1回5〜10分です。数秒で口を離してしまう物は、素材が何であれ歯には届いていません。時間が伸びないときは、素材そのものを変えてみてください。
またたび入りのおもちゃは毎日与えていいですか?
毎日与えても問題ありませんが、反応は次第に鈍くなります。数日おきに出すほうが、噛む時間は長く保てます。またたびに反応しない猫も約3割いるため、その場合は別の素材で試してください。
子猫にも噛むおもちゃを与えていいですか?
与えて構いません。歯の生え変わり期は噛みたがりが強くなるため、やわらかめの素材を選んでください。硬い物は乳歯や生えかけの永久歯を痛めることがあります。
おもちゃはいつ交換すればいいですか?
繊維がほつれて長い糸が出てきたら交換してください。噛みちぎれる大きさの破片が出るようになった時点でも処分します。見た目がまだきれいでも、ほつれが出たら使い続けないでください。