9月29日は「招き猫の日」です。玄関の置物と同じ形で、うちの猫が前足を上げたまま止まっている——そんな瞬間を見たことがある方は多いと思います。あれは何をしているところなのでしょうか。
先に結論を書きます。猫が前足を上げて止まるのは、次の動作に移る途中で判断が保留になった状態です。招き猫のポーズは、その一瞬を切り取った形だと考えると説明がつきます。つまり「招いている」のではなく、「まだ決めていない」のです。
招き猫のポーズは、実際の仕草のどれにあたるか
猫が前足を持ち上げる場面は、日常のなかにいくつもあります。共通しているのは、前足が体を支える役目から一時的に外れているという点です。歩いているときや座って落ち着いているときに、前足だけが上がることはありません。
言い換えると、前足が上がっている猫は、何かをしようとしている途中です。置物の形が自然に見えるのは、その途中の姿勢が猫にとってよくある形だからです。
そしてこの「途中」は、たいてい長く続きません。数秒から十数秒で、前足は下りるか、次の動作に移ります。この時間の感覚を持っておくと、後で出てくる「体の問題」との区別がつけやすくなります。
前足を上げて止まる、5つの場面
| 場面 | 直前に起きていること | 見分け方 |
|---|---|---|
| 毛づくろいの中断 | 前足を舐めていた | 前足が濡れている、舌が少し出ている |
| 狩りの保留 | 動くものを見つけた | 耳と目が一点に向いている、尻尾の先が動く |
| 手を伸ばしている | 届かない位置に何かがある | 体が対象のほうへ傾いている |
| 相手の出方を待つ | 猫や人が近づいた | 耳が横向き、体は引き気味 |
| 足裏を気にしている | 何かを踏んだ、濡れた | 同じ足を何度も上げる、地面につけたがらない |
上の4つは正常な行動の途中経過です。最後の1つだけは体の話なので、後の項目で分けて扱います。
いちばん多いのは「狩りが途中で止まった」形
室内の猫でいちばんよく見るのは、2番目の狩りの保留です。狩りの動作は、見つける・忍び寄る・押さえる・仕留める、という順番で進みます。前足を上げて静止しているのは、「押さえる」の直前で、まだ距離を詰めきれていない状態です。
この形で固まっている時間が長いほど、猫は迷っています。相手が動き出せば前足が下りますが、動かないまま時間が経つと、猫は興味を失って前足を下ろします。狩りの流れ全体は猫の狩りのサイクルで扱っています。
遊んでいる最中にこの形が出たら、そこで少しだけ動きを止めてください。猫が詰め寄る余地が生まれ、前足が下りて次の動作に進みます。動かし続けると、猫は距離を詰めるきっかけを失ったまま疲れます。
前足で「かく」「叩く」は、遊びの中心の動作です
猫の遊びは、走って追いかける部分より、前足で触れて確かめる部分のほうが長く続きます。おもちゃを転がす、隙間に手を入れる、出てきたものを叩く——どれも前足の仕事です。
つまり前足を使う遊びは、飽きにくい遊びでもあります。走り回るほどの体力が要らないので、運動量が落ちてきた猫でも最後まで付き合えます。
逆に、前足が出ないまま見ているだけで終わる遊びは、猫にとって完了していません。見ている時間が長く、手が出ない遊びは、動きが速すぎるか、高さが合っていないかのどちらかです。
招き猫の由来は、どこまでが分かっていることか
ここは正直に書きます。招き猫の由来には複数の説があり、どれが本当かは分かっていません。右手と左手で意味が違うという言い方も、地域や時代によって説明がまちまちです。
この記事で書けるのは、置物の由来ではなく、実際の猫が前足をどう使うかだけです。由来の話は、そういう言い伝えがある、という以上のことは書けません。
前足を上げたまま下ろさないときは、遊びの話ではありません
ここまでの4つは、いずれも数秒から十数秒で終わります。同じ前足を何度も上げる、地面につけたがらない、片足をかばって歩く——これらが続く場合は、行動ではなく体の問題です。
多いのは、肉球に何か刺さっている、爪が割れている、爪が伸びすぎて肉球に当たっている、といったものです。深爪して出血したあとの対応は猫の深爪で血が出たときの対処にまとめています。
子猫とシニアで、前足の使い方は変わります
- 子猫。前足の力加減がまだ下手で、叩く動作が大振りになります。爪が出たままのことも多いので、手で遊ばせないでください。
- 成猫。狙いが正確になり、前足だけで対象を止められるようになります。遊びの中心がここに移ります。
- シニア。持ち上げる高さが下がります。高い位置の遊びに反応しなくなったら、床面で前足を使う遊びに替えてください。
年齢で変わるのは意欲ではなく、届く高さと、持ち上げていられる時間です。この2つを下げてやると、同じおもちゃでも手が出るようになります。
多頭飼いでは、前足を上げて止まるのが合図になります
猫同士が向き合って、片方が前足を上げたまま止まることがあります。これは猫パンチの予備動作に見えますが、実際には「まだ決めていない」の表示で、その場で決着がつかない限り多くはそのまま終わります。
ここで人が声を出したり間に入ったりすると、保留が解けて一方が動いてしまいます。前足が上がっている段階では、手を出さずに見ていてください。どちらかが目をそらせば、そこで終わります。
前足を使う遊びの作り方
- 猫の前足が届く高さに置く。床から少し浮いている程度が、いちばん手が出やすい高さです。
- 隠れて出てくる形にする。見えたり消えたりするものは、前足で押さえにいく動作を引き出します。
- 最後は必ず捕まえさせる。押さえられないまま終わると、次から手が出にくくなります。
叩く動作を引き出しやすいのは、穴から出たり隠れたりするカピバラポップアップのような形です。布の下に何かが動く感覚を作るならハンティングカバー、前足でかいて転がす動きならCoil Chase 折りたたみ式スパイラルが向きます。ほかの選択肢はインタラクティブおもちゃ一覧から探せます。
こういうときは獣医師へ
前足に関する次のような様子は、遊びや仕草の話ではありません。動物病院にご相談ください。
- 同じ前足を上げたまま、地面につけたがらない状態が続く
- 歩き方が変わった、段差を避けるようになった
- 肉球が赤い、腫れている、切れている
- 前足を過剰に舐め続け、毛が薄くなっている
- 【緊急】爪の根元から出血していて、押さえても止まらない
- 【緊急】前足がぶらついている、触ると強く痛がる
ここに挙げたのは相談のきっかけであって、原因を家庭で判断するためのものではありません。気になる場合は獣医師にご相談ください。
よくあるご質問
猫が前足を上げて止まるのはなぜですか?
次の動作に移る途中で、判断が保留になっているためです。毛づくろいの中断、狩りで押さえる直前、届かないものに手を伸ばしている、相手の出方を待っている、の4つが主な場面です。数秒から十数秒で下ろすのが普通です。
招き猫のポーズをする猫は本当にいますか?
います。ただし人を招いているのではなく、上に挙げた場面のどれかで前足が止まっている状態です。置物の形が自然に見えるのは、それが猫にとってよくある姿勢だからです。
右手を上げるか左手を上げるかに意味はありますか?
実際の猫については、その場の状況で使う前足が決まります。置物の左右の意味づけには複数の言い伝えがありますが、どれが正しいかは分かっていません。
前足をずっと上げているときはどうすればいいですか?
行動ではなく体の問題を疑ってください。肉球に何か刺さっている、爪が割れている、爪が伸びすぎている、といった原因が多く見られます。地面につけたがらない状態が続くなら受診してください。
前足を使う遊びは運動になりますか?
なります。走り回る遊びほどの体力は使いませんが、狙って押さえる動作は集中力を使うため、短時間でも満足しやすい遊びです。運動量が落ちてきた猫にも向いています。