猫の歯磨きをしていない。あるいは何度か試して、やめてしまった。これは珍しいことではありません。
ここでは、できていない状態から何をどの順番で始めるかを整理します。今日から全部やる必要はありませんし、歯ブラシに到達しなくても意味のある段階があります。
先に結論を書きます。いきなり歯ブラシを目指さず、口のまわりを触らせてくれるところから段階を分け、続けられる頻度に落とすのが最短です。
歯磨きが勧められる理由
猫の口の中では、食べかすと細菌が混ざった歯垢が歯の表面につきます。この歯垢は数日で硬い歯石に変わるとされています。歯垢は歯ブラシやガーゼで落とせますが、歯石になると家庭では取れません。動物病院で処置することになります。
つまり歯磨きの目的は「歯石を取ること」ではなく、「歯垢のうちに落として、歯石になる量を減らすこと」です。だから完璧でなくても、頻度が低くても、ゼロとは違います。
「できない」の中身を切り分ける
ひとくちに「歯磨きができない」と言っても、詰まっている場所は違います。次のどれに近いか見てください。ここが決まれば、次にやることが決まります。
| 詰まっているところ | 次にやること |
|---|---|
| 口のまわりを触ると顔をそむける | 段階1:触られることに慣らす |
| 触れるが、口を開けさせられない | 段階2:開けずに外側だけ |
| 数秒ならできるが、続かない | 段階3:回数より継続を優先する |
| やろうとすると本気で怒る | 無理をせず、獣医師に相談する |
どこまでできれば「合格」か
「全部の歯をブラシで磨けて合格」という基準を先に置くと、途中の努力がすべて失敗に見えます。今いる段階を確認して、ひとつ上だけを当面の目標にしてください。
| 段階 | できていること | 期待できること |
|---|---|---|
| 0 | 口のまわりを触らせてくれない | 顔まわりを見る習慣がつく |
| 1 | 唇をめくって歯が見える | 歯ぐきの色や歯石に気づける |
| 2 | シートで外側をこすれる | 歯垢が付いている時間を短くできる |
| 3 | 歯ブラシが奥歯の外側に届く | 家庭でできる範囲としては十分 |
| 4 | 週2〜3回が続いている | 続いていること自体が差になる |
段階1:触られることに慣らす
歯ブラシは持たない日をつくります。猫がくつろいでいるときに、口のまわりを指で1秒だけ触って、すぐ離す。おやつを少しあげる。これだけです。
1日2〜3回、数日繰り返します。顔をそむけなくなったら、唇を軽くめくって歯が見える状態まで進めます。ここまでで数日から数週間かかることもありますが、急いで嫌な記憶を作るより結果的に早く進みます。
特に苦手な猫では、週単位で区切ると迷いません。
- 1〜3日目:口のまわりを1秒触っておやつ
- 4〜7日目:唇を軽くめくってすぐ離す
- 2週目:歯が見える状態を2〜3秒たもつ
- 3週目:ガーゼで前歯を1〜2本こする
- 4週目:奥歯の外側に指を届かせる
うまくいかない週は、ひとつ前に戻します。戻ることは失敗ではなく、この進め方の一部です。
段階2:口を開けずに、外側だけ
歯垢がつきやすいのは奥歯の外側です。内側は舌が当たるぶん、外側より汚れにくいとされています。つまり口を大きく開けさせなくても、意味のある範囲には届きます。
指にガーゼを巻く、または猫用の歯みがきシートを使い、唇をめくって外側を数秒こする。全部の歯を目指さず、今日は右の奥歯だけ、次は左だけ、と分けてかまいません。
ここまで受け入れられるようになってから、初めて歯ブラシに移ります。ペット歯ブラシのような猫用のものを選んでください。人間用の歯磨き粉は、猫が飲み込むべきでない成分が入っているため使いません。
段階3:頻度は「続けられる回数」で決める
毎日が理想とされますが、実際に毎日続いている家庭は多くありません。週に2〜3回でも、まったくやらないのとは違います。
大切なのは、猫が嫌がる前に終わることです。10秒で切り上げた日が7日続くほうが、5分頑張って猫が逃げるようになるより、長い目で見て歯に触れる総時間は長くなります。
歯ブラシ以外の選択肢を、正直に位置づける
ここは誤解が多いところなので、はっきり書きます。
噛むタイプのおもちゃ、デンタルおやつ、飲み水に入れるタイプ。これらはいずれも歯ブラシの代わりにはなりません。歯の表面を物理的にこする力は、直接ブラシを当てるほうが強いためです。
では意味がないかというと、そうでもありません。噛む行動そのものが口を使う時間を作り、猫が自分から続けられるという利点があります。PurrBite(マタタビ&キャットニップの噛むおもちゃ)やVineChew(天然マタタビのチュトイ)は、口を触らせてくれない猫にとって、何もしないよりは口を動かす機会になります。
ただし医療・治療目的の商品ではなく、歯石を取る効能をうたうものでもありません。噛んでいる間は必ず見守り、小さくちぎれた部分を飲み込まないよう注意してください。破損が見られたら使用を中止します。デンタルおやつをどこまで当てにしていいか、一日に与えていい量の目安は 猫の歯磨きおやつは効果があるのか にまとめています。選び方は猫の歯磨き・デンタルケア用品にまとめています。
飲み水に入れるタイプを使うなら、器が清潔であることが前提です。ぬめりが出ると飲む量そのものが減ります。手入れの目安は 猫の給水器のお手入れ にまとめています。
シニア猫で無理をさせない線引き
7歳を過ぎてから初めて始めるなら、慣らす前に一度、口の中を診てもらってください。年齢が上がるほど、すでに口の中に痛みの原因を抱えている猫は増えるとされています。痛いところを触れば、嫌な記憶にしかなりません。
問題がなければ、進め方は成猫と同じです。違うのは姿勢と時間で、関節が硬くなった猫を上から抱え込むと、口より先に体勢のほうを嫌がります。体を動かさずに顔だけ触れる姿勢を選び、1回あたりも短く切り上げてください。
多頭飼いで1匹だけ嫌がるとき
複数飼っていると、受け入れる子と嫌がる子に分かれます。起きやすいのは、できる子を先に済ませて嫌がる子を最後に回す順番です。待つあいだに空気が変わり、その子は始める前から身構えます。
猫ごとに場所と時間を分けてください。他の猫の前でやらない、嫌がる子は先に短く終わらせる。おやつも1匹ずつにし、道具も分けます。
1匹だけ極端に嫌がる場合は、性格の問題と決めつけないでください。その子だけ口の中に痛みがある可能性があります。段階を戻しても変わらないときは、受診を先にしてください。
こういうときは獣医師へ
次のような様子があるときは、歯磨きを始める前に受診してください。すでに口の中に問題があると、触られること自体が痛みにつながります。
- 口臭が急に強くなった
- よだれが多い、口を前足で気にする
- ドライフードを避ける、片側だけで噛む
- 歯ぐきが赤い、触ると出血する
- 食べる量が減った、体重が落ちた
- 【緊急】顔の片側や目の下が腫れている、口を閉じられない、まる1日以上まったく食べていない
最後の項目は当日中の受診をおすすめします。食べない時間が続くこと自体が負担になり、腫れや口が閉じられない状態は、様子を見て良くなるものではないためです。
気になる症状がある場合は、獣医師にご相談ください。年に一度の健康診断で口の中を見てもらうと、家でのケアの目標も立てやすくなります。
よくあるご質問
猫の歯磨きをしていないと、どうなりますか?
歯垢が数日で歯石に変わり、家庭では落とせなくなるとされています。歯石が増えると歯ぐきに炎症が起きやすくなります。ただし進み方には個体差が大きく、今どういう状態かは口の中を見ないと分かりません。健康診断の機会に獣医師に確認してもらってください。
何歳からでも始められますか?
始められます。子猫のうちから慣らせるのが理想ですが、成猫でも段階を踏めば受け入れる猫はいます。ただし高齢猫やすでに口を痛がる猫では、慣らす前に一度受診してください。
週1回でも意味はありますか?
ゼロとは違います。歯垢が歯石に変わるまでの時間を考えると回数は多いほうがよいのですが、続かない頻度を目標にして途中でやめるより、週1回を1年続けるほうが結果は残ります。
歯磨きシートと歯ブラシ、どちらから始めるべきですか?
口を触られることに慣れていない段階なら、指に巻けるシートやガーゼのほうが受け入れられやすい傾向があります。歯ブラシは異物感が強いため、歯に触れられるようになってからで遅くありません。
デンタルおやつだけでもいいですか?
それだけで十分とは言えません。噛む機会を作る道具として位置づけ、可能な範囲で直接歯に触れるケアと組み合わせてください。どちらも難しい場合は、定期的に口の中を診てもらうことがより重要になります。