夜、パソコンに向かっていると、足元でくぐもった鳴き声がする。振り返ると、猫がねずみのおもちゃをくわえて座っている。落として、こちらを見て、また鳴く。同じことが毎晩のように続く。
先に結論を書きます。おもちゃを持ってくる行動は、狩りの獲物を巣に持ち帰る動作が土台にあり、そこに「持っていくと人が反応してくれる」という学習が重なったものだと考えられています。叱る必要も、無理にやめさせる必要もありません。
持ってくる猫と、持ってこない猫がいる
この行動をする猫はよくいますが、全部の猫がするわけではありません。同じ家で育った兄弟でも、片方だけが毎日運んでくることがあります。
傾向としては、人によくついて回る猫、よく鳴く猫、そして狩りごっこの遊びが好きな猫に多く見られます。ただしこれは統計的な傾向であって、性格や品種で確実に分かれるものではありません。持ってこない猫が愛情不足だとか、退屈しているということではありません。
土台にあるのは「獲物の持ち帰り」
猫が捕らえた獲物を運ぶのは、その場で食べるより安全な場所へ移動するためです。母猫は捕らえた獲物を子猫のところへ運び、狩りを教えます。屋外に出る猫が虫や小動物を玄関に置いていくのも同じ流れです。
室内猫にとって、おもちゃはその獲物の代わりです。捕らえた(=口にくわえた)ものを、いちばん安全だと思っている場所へ運ぶ。その「安全な場所」が飼い主の足元になっている、というのがこの行動の骨格です。持ってくる相手が家族の中で決まっているのも、これで説明がつきます。
「遊んで」の合図として学習されている場合
もう一つ重なっているのが学習です。おもちゃをくわえて近づいたとき、人はほぼ確実に反応します。声をかける、手を伸ばす、投げてやる。猫から見れば、「これを運べば相手が動く」というのは非常に分かりやすい因果関係です。
だから、最初は持ち帰りの本能で始まった行動が、だんだん「遊びの誘い方」として定着していきます。持ってくる時間帯が毎日ほぼ同じ、持ってくるおもちゃが決まっている、という猫は、この学習の側面が強く出ています。
くわえながら鳴くのはなぜか
くわえたまま鳴くと、口がふさがっているために低くこもった声になります。この鳴き方は、獲物をくわえた母猫が子猫を呼ぶときの声に近いとされます。
| 状況 | 声の出し方 | 考えられる意味 |
|---|---|---|
| おもちゃをくわえて近づく | 低くこもった声を繰り返す | 持ち帰りの呼びかけ・遊びの誘い |
| 落としてから鳴く | 短く高い声 | 人に向けた要求(投げて・動かして) |
| 夜中に運びながら鳴く | 家じゅうに響く大きな声 | 活動時間帯のずれ・退屈 |
| 高齢猫が急に増えた | 方向感のない大きな声 | 体調の変化を疑う(後述) |
くわえて鳴くこと自体は異常ではありません。気にするべきなのは「鳴き方が最近変わったかどうか」です。
運ばれやすいおもちゃには特徴がある
持ってこられるおもちゃを見ると、だいたい条件がそろっています。
- 口にくわえやすい大きさ。猫の口の幅に収まる、細長いか小ぶりなもの
- 軽い。運びながら歩ける重さ
- 毛や布の質感がある。硬いプラスチックより、噛んだ感触が残るもの
- においがついている。使い込んだもの、またたびの入ったもの
けりぐるみ型はこの条件をよく満たします。キャットニップ入りけりぐるみ 6本セットのように細長くて軽いものは、抱えて蹴った後にそのまま運ばれることが多いおもちゃです。ただしまたたび類に反応しない猫は約3割いるとされているので、初めてなら少量から試してください。どのタイプが好きか分からない場合は、選べる猫のおもちゃセットのように種類を組み合わせたものから絞るのが早いです。ほかの型は猫のおもちゃにまとめています。
持ってきたときの返し方
- まず声で応える。手を出す前に一言返すだけで、猫は「届いた」と受け取ります
- 短く動かす。そのおもちゃを2〜3分動かして、猫に捕まえさせて終わります
- 捕まえさせて終える。取り上げて終わりにすると、遊びが未完のまま残って何度も持ってきます
- 置き場所を決める。遊び終わったおもちゃを毎回同じ場所に戻すと、猫もそこから運んでくるようになります
毎回付き合う必要はありません。応えられないときは声だけ返して、後でまとめて遊ぶほうが続きます。おもちゃ以外での一人遊びの育て方は猫に一人遊びを覚えさせるで扱っています。
また、くわえて運ぶのではなく、前足を上げたまま止まって待つ猫もいます。その仕草が何を意味しているかは猫が前足を上げるのはなぜで扱っています。
やらないほうがいい反応
- 取り上げて隠す。猫にとっては運んだ結果が「獲物を失う」になり、別の場所へ運ぶようになります
- 毎回すぐ投げ返す。投げるだけの遊びは捕まえる達成感が薄く、要求が増える方向に働きます
- 叱る。この行動は好意的な文脈で出ているので、叱っても意味が伝わりません
- 夜中に必ず応じる。夜に反応が返ると、その時間帯が定着します
夜中に持ってきて鳴くとき
猫の活動が高まるのは明け方と夕方です。夜中に持ってきて鳴くのは、多くの場合その時間帯に体が起きているのに、遊ぶ相手がいないからです。
効くのは、寝る前に一度、猫が息を切らすところまで遊んでから食事を出すことです。狩り、捕獲、食事、毛づくろい、睡眠という猫本来の流れをなぞる形になり、そのまま寝つきやすくなります。夜中に応じるより、時間帯を前にずらすほうが結果的に早く落ち着きます。
この行動は教えられるのか
教え込むことはできません。する子としない子がいて、しないこと自体は問題ではありません。おやつで釣って持ち帰らせる形にすると、遊びではなく餌の要求になってしまい、別の行動に変わります。
できるのは、運びやすいおもちゃを置いておくことと、持ってきたときに反応を返すことだけです。それでもしない猫はしません。その猫にとっての誘い方が、運ぶことではないというだけです。どのおもちゃに反応しやすいかは猫が本当に喜ぶおもちゃのほうで整理しています。
こういうときは獣医師へ
持ってくること自体は正常ですが、次のような変化があるときは診察を検討してください。
- 高齢猫で、夜間の大きな鳴き声が急に増えた(甲状腺機能亢進症・高血圧・認知機能の低下で見られます)
- おもちゃではなく布や紐、ビニールを運んでは噛む・食べようとする
- くわえようとしてうまくできない、よだれが増えた、口を気にする
- 急に持ってこなくなり、同時に食欲や活動量が落ちた
- 鳴き方が普段と違い、落ち着かずに歩き回る
- 【緊急】紐・リボン・糸のついたおもちゃを飲み込んだ疑いがある場合は、様子を見ずにすぐ受診してください。口や肛門から出ている部分を引っ張らないでください
気になる症状があるときは、獣医師にご相談ください。
よくあるご質問
猫がおもちゃを持ってくるのはなぜですか?
獲物を安全な場所へ運ぶ狩りの動作が土台にあり、そこに「持っていくと人が反応してくれる」という学習が重なったものと考えられています。飼い主の足元が、その猫にとっていちばん安全な場所になっているということです。
くわえながら鳴くのはどうしてですか?
口がふさがっているため低くこもった声になります。獲物をくわえた母猫が子猫を呼ぶときの声に近いとされます。鳴くこと自体は異常ではありませんが、鳴き方が最近変わった場合は体調の変化を疑ってください。
持ってきたら必ず遊ばないといけませんか?
毎回付き合う必要はありません。ただし無視を続けると回数が増えることがあります。応えられないときは声だけ返しておき、後で2〜3分、捕まえさせて終わる遊びをまとめて入れるほうが続きます。
うちの猫は持ってきません。問題ですか?
問題ではありません。する子としない子がいて、教え込むこともできません。その猫にとっての遊びの誘い方が、運ぶことではないというだけです。
夜中に持ってきて鳴きます。やめさせられますか?
夜中に応じると時間帯が定着します。寝る前に息が切れるところまで遊んでから食事を出すと、狩り・捕獲・食事・睡眠の流れになり、寝つきやすくなります。時間帯を前にずらすほうが早く落ち着きます。